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 ・長さ
ミステリ史上最大にして最長の作品として知られる本作は、長いにもかかわらず長いと感じさせないとても読みやすい作品だった。
おそらく、大多数の人が手にとる前にその長さを目にして躊躇するだろう、しかし、思いのほか、この作品は長いと感じさせない作品だった。
単純に面白いから、というのがその理由だが、不思議なくらいに読者の興味を引っ張り、ぐいぐい読みすすめてしまう奇妙な魅力に溢れている。
特に、一巻と二巻は、それぞれ独立したホラー小説として楽しめる構成になっており、こういった区切りのよさも、読みやすさに貢献しているのだろう。

さて、この作品はなぜこんなにも長いか、だが、あとがきで作者が書いているように、これくらいの規模の謎を描くためには、これだけの長さが必要とされたのだ。
要するに何が言いたいかというと、いたずらに長いだけというわけではなく、むしろ無駄がない引き締まった作品といってもいい、ということだ。
これは本当にもう、読んでくれなきゃ分からない事だけど、読んでいる最中は「長い!」とか「まだ終わらないの?」といったことは全くといってもいいほど感じなかった、すらすら読みすすめてしまう。
これだけ長いにもかかわらず、読者の興味をぐいぐい引っ張る作者の筆力には脱帽するしかない。


・悪の度合

また、真犯人のどうしようもないくらいの悪人っぷりも、もはやここまで来ると清々しいといってもいいくらいの悪っぷりで印象に残った。
悪に見えるけど色々な事情があるっ!、的な相対主義的な言説が全くといってもいいほど通用しないような、どっからどう見ても悪としか言いようのない悪なので、作中で描かれる残虐な殺人事件の数々に見合っており、奇妙な説得力を持っている。
こういった、人情やらヒューマニズムやらをまったく受け付けないような真犯人とその動機は、多少好みの別れる作風なのかもしれない、がしかし、俺は結構好きだ。
「悪」を描いた作品として見ても結構面白い。


・複雑な殺人とシンプルなトリック

ミステリに対する理想のひとつとして、複雑怪奇でとてもではないけれど解けそうにない事件が、シンプルで分かりやすいトリックによって成り立っている、というのがある。
複雑な事件を複雑に解くのならまだしも書くのは容易いだろう、しかし、複雑な事件を支えるのが、拍子抜けするほどシンプルなトリックによって成り立っているというのは、言うは安し行うは難しで、中々見かけないものだ。
この作品は、その理想をかなりの程度実現している。
本作のメイントリックは呆れるくらいに単純で、しかも中々思いつかないような意外性に満ちており、確実に読者を驚かせてくれる。
このメイントリックは、第三部辺りからかなりきわどいヒントを提示してくれるので、推理力に自身のある人は頑張って頭を働かせてみて欲しい、俺は無理だったけどね(笑)。


・まとめ

というわけで、これだけ長いにもかかわらず、全くといってもいいくらいに長いと感じさせず、すいすい読み進めることのできる作品だった。
読む前は、中盤あたりで中だるみしたり、読むのがめんどうくさくなったりするのかなあ、などと思っていたが、まったくそんなことはなかった。
多分、あまりにも長すぎて読むのを躊躇している人は結構いるのだろうが、そういった点に関してはまったく心配ないと断言してもいい。
これだけ長い作品にもかかわらず、長いと感じさせないという稀有な作品なのだから。
そして、全編読み終えると、この作品を表現するにはこれだけの長さが必要とされたということがよく分かってしまう。
だから、長さという点に関してはまったく不満はない、密度の濃い作品だった。

あとは、蘭子シリーズ未読の読者がいきなりこの作品を読んで大丈夫なのか、だが。
多分まあ、大丈夫だと思う。
出来れば一作目から順番に読んだほうがいいとは思うが、いきなりこの作品から読んでも…、理解に苦しんだりすることは…ないはずだ、多分。
ただ、出来れば一作目から読んだほうが理解しやすいと思う、これは何もシナリオやキャラに対する理解が深まるとかそういったことだけではなく、二階堂蘭子シリーズの「長さ」と「ノリ」に慣れてからの方がすらすら読めると思うんだよね、多分。
なので、いきなりこれから読んでも基本的には大丈夫だけど、ある程度蘭子シリーズに慣れたほうが、より楽しみやすいとは思う。

Kindle   第一部 第二部 第三部 第四部
Digital e-hon 第一部 第二部 第三部 第四部



二階堂蘭子シリーズは吸血の家から発表順に読み始めたのだけれど、短編長編含めて今までのところこれが一番面白かった。
このシリーズは、実に本格らしい本格と言うか、いかにも探偵小説という感じの直球の作風で、いかにもな探偵小説を読みたいと言う欲求に全力で答えてくれるのが好ましい。
この作品も、見立て殺人からはじまり宗教やオカルトに関する薀蓄、そして怪しげな館に住まう一族と、いかにもそれっぽい要素がふんだんに散りばめられている。

蘭子シリーズを今まで読んできて思ったのは、ミステリとしてしっかりしていると言うだけでなく、物語としてもしっかりしているという事だ。
ミステリ小説としてはもちろん充分合格な上に、それだけでなく、物語としても十分面白いというのが、このシリーズに対して好ましく思っている理由だ。
ときたま、ミステリとしては面白くても、物語としてはまあまあだったりする作品というのに出会ってしまったりするものだが、この蘭子シリーズは、両方の基準を余裕でクリアしている。

ミステリとして面白いだけでなく物語としても面白いものを、というのが、自分がミステリに求めているものなので、どうやらこのシリーズは自分の好みに合致しているようだ。
もちろんミステリオタクにとっては、物語として多少アレでも、ミステリとしての完成度が高ければそれで充分という事になるのかもしれないが。
自分の場合、確かにミステリは好きだが、ミステリオタクを名乗るほど好きではないと言う感じで、ただのファンに過ぎない、従って、あまりにガチガチのミステリ作品を読むとちょっとだけ引いてしまったりすることもある。
その点、この蘭子シリーズは色々な要素(ミステリとしての要素、魅力的な物語としての要素、そしてキャラ萌え)を豪勢にぶち込んだうえで非常にバランスの良い物語に仕上げており、ミステリ作家である以前に小説家としての腕の確かさを感じさせる。


さてこの『悪霊の館』だが、一言でいうと、二階堂風グリーン家殺人事件である。
なので、あの作品が好きなひとは何も言わずにさっさと読むべきである。
僧正殺人事件とグリーン家殺人事件なら後者を選ぶ人間なので、この作品には結構満足した。
殺人事件そのものの猟奇性や派手さもさることながら、舞台となるアロー館の雰囲気、うさんくさい登場人物、そして、読者に恐ろしさを感じさせる真犯人とその動機、そういったものから形作られる雰囲気の禍々しさが、何よりも心地よい。
これは魅力的なミステリである前に一流の物語であり、本格ミステリを敬遠しているような人にも読んで欲しいと思う。

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