要するによくある外国人の日本体験記あるいは日本文化論であり、似たような書物は中身の薄い本であれ濃い本であれ、少なくて探すのに困るという事はなくむしろ、1ジャンルをなしているといってもいい。
こういった内容の本は外の目から日本の特異性をあぶり出し読者に提示するという面白さがあり、それはそれで魅力的だが、ある程度こういった本を読むと、外国人の驚くポイントがそこそこ予想できるようになってしまい、類書を読めば読むほど驚きも発見もなくなってしまうというのがある。
もちろんだからといって面白くないという事はなく、日本のもつ特異性と普遍性を確認するという意味では面白いし、著者独自の見解や新しい発見に出会うこともあり、決して読むのが無駄とは思っていない。
ただ、新鮮な驚きというものにはなかなか出会えないし、外国人が日本に対して持つ驚きや感想というものも、ある程度予想はついてしまうので、凡庸なものを読まされると、ふ~んとしか思わなかったりする。

この本も著者独自の見解やオリジナリティ溢れる発見があるかというとそうでもなく、コミュニケーションの違いにしろなんにしろ、きっと外国人ならば戸惑うだろうなという事に戸惑い、そして、問いや疑問を発している。
そういった意味で、文化論あるいは日本論として印象に残ったわけではない。レベルが低いというわけでは決してなく、それなりに読み応えがあり、先輩からものを借りるときに私物だといわれて借りたのをその意味がわからず、うかうかと長期間借りてしまい、友達から注意されてやっとその意味がわかった、などというくだりは非常に印象に残ったりする。
ただ、これもよく言われるような、空気あるいは場の文脈に過度に依存した日本式コミュニケーションがもたらすカルチャーギャップであり、例そのものが新鮮で面白かったわけで、外国人が日本式のコミュニケーションに戸惑うのは想定内といえば想定内の出来事だ。

この本の魅力は日本文化論の部分にあるのではない、十分そこも魅力的だがしかし、この本の本質は一人の女性の書いた異文化体験記であり、魅力と価値はそこにこそある。
何よりも好感を覚えたのは、作中で発せられる疑問にしろ感想にしろきちんと地に足がついていて上滑りしていないところだ。
それはもちろん体験に基づいているからといえばいえるが、理屈やイメージや先入観を振り回さず、自分の感じたこと経験した事から「なぜ?」と疑問を発し、演繹的に考え記述されているからこそのものだろう。

この本は、外国人が見た日本を描いたというよりもディオンが見た日本が描かれており、それこそがこの本の価値であり個性である。文体と内容から著者の人柄が見えるところこそこの本の最大の魅力であり、読み終わった後は誰しもが著者の飾らない人柄に対して好感を抱くだろう。
できればこの人の書く文章をもっと読んでみたい、岩波はもっとこの本を宣伝するべきだろう。


著者に対するインタビュー
『東大留学生ディオンが見たニッポン』のディオンさんに聞く、留学のすすめ

amazon honto