カラスっぽいブログ

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カテゴリ: ミステリ




探偵 神宮寺三郎 新宿中央公園殺人事件(FCDS)

神宮寺シリーズの一作目。はっきり言ってアレな内容だった。難易度は高いし、三十日過ぎるとゲームオーバーになるらしいし、無駄な要素があるしで、いまいちな内容。そもそも、ゲームを始めるといきなりドラクエみたいなマップ見下ろし画面になったりして、最初から途方にくれてしまう。スタイルは古典的なAVGでいわゆるコマンド総当たりが有効なやつ。なんだけど、コマンドの数が話を進めれば進めるほど多くなり、総当たりが苦痛。かといって真面目にプレイしないとゲームオーバーになってしまう上に、派出所の場所が理不尽だったりするので、途中から攻略サイトを見てプレイしてしまった。で、たどり着いた真相は確かに聞いていたとおりにバカミス。大した内容ではなかった。しかし、雰囲気やグラフィックは妙に渋く、独特の魅力を持っている。このダメな一作目から、どんな風に飛躍するのか楽しみだ。

30点



探偵 神宮寺三郎 横浜港連続殺人事件(FC)

一応及第点はとっているという印象。一本のゲームとして楽しめる内容にはなっている。正直言って、すごく楽しめるというほどではないし、シナリオもさして印象には残らない。非常に無難な作品で、可もなく不可もなくという感じか。前作同様、ボリュームがやや少ない点が気にかかるが、はずれ選択肢を選んだ場合に、いろんな反応が返ってくるところは進歩が見られる。おかげで、古典的なAVGとはいえ、まだしも前作よりは少ない苦痛で楽しめた。また、グラフィックも前作よりは進化しており、特に助手のようこがとても可愛くなっていて、目の保養になった。それだけでなく、ようこが活躍する場面もきちんと描かれているのは好印象。ゲームオーバーも廃止され、安心して楽しむことができるが、一部、単純な総当たりでは無理そうなところがあったりして、ちょっとだけ攻略を見てしまった。

50点



探偵 神宮寺三郎 危険な二人(FCDS)

結構本格的な長編推理っぽい気がする・・・、といいたいところだけど、登場人物多過ぎ、事件複雑過ぎで、なにがなにやらわからないままで終わってしまった。登場人物の名前がみんな平凡なうえにあまり個性もないのでイマイチ覚えにくいのも、よくなかった、リアル路線だから仕方ないのかもしれないが・・・。キャラ・ストーリー的には、ようこの過去に関わるキャラが出てきたり、彼女と親しいキャラが犠牲者だったりして、若干メインキャラを掘り下げる内容なのは良いと思う。

40点



探偵 神宮寺三郎 時の過ぎゆくままに…(FC)

神宮寺と洋子、二人の視点が切り替わりながら進むという、おそらく当時としては斬新な作風。ただ斬新とは言ってもそこまでで、中身は古式ゆかしいAVGなので今プレイするとちょっときついものがあった。正直言ってそんなに楽しいもんでもなく、終盤はめんどくさくなってちょっとだけ攻略情報を見てしまったくらい。シナリオは、前作までのいかにもミステリって感じの雰囲気とは違い、ややほのぼの系というか、いい話系の物語で、若干作風を変えてきている。毎回毎回殺人事件が起こってどうのこうのだと、さすがに飽きがくるかもしれないのでこれはこれでいいと思う。ただ、今までの三作と比べるとパンチが弱いというかやや印象が薄いというのがあるが、それはこの作品の作風を考えると仕方がないことかもしれないので、欠点に数えるのは酷かもしんない。シナリオについてだが、個人的には、あまりにもいい話しすぎてちょっと物足りなかった。家族の悲劇みたいなのを期待してたんだけど、ちょっと違ったな、と。とは言っても、そこそこ楽しませるシナリオではあり、4作品の中では一番良かったと思う。

54点
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50点 6時間

SFCだとこの作品だけリメイクされているので、名作なのかな?とちょっとだけ期待してプレイしたがやや期待外れだった。プレイしやすさについては前作に比べ改善され、行ける場所が絞られていることによって、「いろんな場所をうろついてコマンド選択」の苦痛はかなり改善されている。ここは良いところなんだけど、ストーリー面はいまいち響かなかった。ラストの「衝撃の展開」も、あまりにも唐突すぎて草が生えそうになった、いや、ちょっとはやした。なので、そんなに悪くはないできなんだけど、名作かなと期待した割には大したことがなかった、というのが正直なところだ。
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法月綸太郎というと、後味の悪い傑作を書く作家というイメージが自分の中にはある。
今まで読んだ作品のなかでは、「頼子のために」「一の悲劇」「法月綸太郎の冒険」あたりが思い浮かぶが、いずれも後味の悪い傑作ばかりで、悲劇性は悲劇性でも、爽やかさなどは皆無、ぐちゃっとした読後感が売りの作家、というイメージだ。
この作品も確かに、悲劇といえば悲劇だが、しかし、後味の悪さは少なめの切ない系の悲劇であり、上にあげた諸作品のような、「ぐちゃ」っとした読後感などは皆無だった。まっとうな悲劇だと思う。

いきなり二人称で始まる取っつきの悪さや、その割には二人称という仕掛けがそこまで上手く機能しているようには思えない、とか、そういった欠点がないわけではない。
がしかし、そういった欠点はあまり大きいものには見えない、小さな傷のようなものだろう。
そういった小さな欠点を補ってあまりある長所がこの作品にはあり、諸手を挙げて素晴らしいとまでは言わないが、全体的に見れば良作の部類だと思う、ミステリとしても、悲劇としても、だ。

この作品を一言で表するならば、バッドエンドの物語という言葉が相応しいかも知れない、もっとも、これは自分がエロゲーマーだから、こんな表現をしてしまうのかもしれないが。
美少女ゲームにおけるバッドエンド、を思わせるものがある。丁寧に気合いを入れて描かれたバッドエンドの物語。ほんの少しの選択ミスで、人が死にそして絶望する。ほんのちょっとしたボタンの掛け違いに過ぎない。違う選択肢を選んでいたら、甘酸っぱいラブコメが展開されたであろう。そう予想するのは容易いことだ、そして無理のない想像だ。この物語は、本来ならばラブコメだったのかも知れない、そう思わせるものがある。これは別に、作者が本来は恋愛小説を書こうとしていた、とかではなくて。

わかりやすい良い紹介
闘争と逃走の道程 小説『二の悲劇』法月綸太郎



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60点 9時間

横溝風のAVG。一応子供向けのはずなのだが、結構サクサク人が死ぬ上におどろおどろしい雰囲気で、ライト横溝といった趣。記憶喪失の主人公が自分自身の謎を解きつつ殺人事件にも挑むという趣向は、ミステリ的であると同時にゲーム的な設定でなかなかはまっている。作品としても、容易に真犯人は分からないしテンポよく人は死ぬしで、そこそこ緊張感があり楽しめる。ごくオーソドックスなAVGなので、コマンドを選択するのがたるくなったり、結局総当たりになったりするという欠点はあるものの、値段と時代を考えればまあまあ楽しめたと思う。終盤、消去法で考えると何となく真犯人の見当がついてしまうのが気になるが、子供向けの作品と考えればそれくらいは仕方ないかなと思った。総合的に見ると、ゲームとしてもミステリとしても悪くないできで、値段分のもとはとれたと思う。
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解説によれば、北川歩実の作風はアイデンティティを揺らがせるのが作風らしい。
この作家の作品を読むのはたぶん二冊目だが、かつて読んだ本は短編集なうえに代表作でもなかったらしくさして印象に残っていない。よくあるというか、それなりの質をたもったミステリ短編集という感じで、読んで損をしたとは思わないものの、かといって得をしたとも思わなかったものだ。

さて、この作品は解説の笠井潔によれば、第一期を代表する傑作らしい。
分厚い分量に人類のアイデンティティという骨太なテーマを扱った本作だが、事実傑作だと思う、読んで得をしたと思える作品だ。
良質なミステリ作品というものは、ただたんに驚かせるだけでなく、ほんの少しだけものの見方・世の中の見方を変えてしまうような魔力を持っている。トリックを理解しすべての真実が明らかになったその瞬間、自分自身のなかにある物事を見る上での偏向に気づかされるわけだ。
そういった意味で、この作品は良質なミステリとしての資格を十分備えている。一読して、「人類のアイデンティティ」に対し少しばかり疑うようになってしまった。果たして「人類」であるという事はそれほどまでに自明な事なのだろうか?、と。

人間とそれ以外を区別する指標は何か?
色々な区別があるだろうが最も決定的で、そして、人類が鼻にかけているものは知性だろう。そして、その知性を証し立てるものとして言葉と文法がある。言葉を使い文法を操る、それこそが万物の霊長である人類の証である、と。
しかし、逆にいえば人類が人類なのは、その程度の根拠しかないという事だ。
この作品は人類と猿を対等に扱っている、対等に扱うという事がどういう意味か?、それは読んでもらうしかないが、切れ味鋭い真相とともに、読者の手には重い問いが残される。
人類とそれ以外を分かつものは何か?、と。

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読後感の悪い傑作。読後感が悪いというと、なんだか作品を貶しているように聞こえてしまうがこの場合褒め言葉である。絶望的とも言える真実に対面した時の圧倒的ともいえるムナクソ感こそがこの作品の醍醐味であり、こういったタイプの独特な読後感も世の中にはあるのだなあ、と思った。後味が悪いというのとは違い、潔いといってもいいくらいに救いの存在しない、晴れやかなといっても過言ではない圧倒的な絶望感は、後味が悪いなどという中途半端なものではなくて、むしろ気持ちがいいくらいに吐き気がする。再読ではあるけれど、ほどほどに記憶が欠けていたおかげで素直に楽しむことができたし、前以上に楽しむことができた。間違いなく傑作。

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「悪魔」というのは通常実体を持ったものとしてイメージされる事が多い、しかし、この作品の悪魔観は一般的なそれとは違う。

「そう、悪魔は埃に似ています。部屋のなかの埃には私たちはよほど注意しないと絶対に気がつきません。埃は目だたず、わからぬように部屋に溜っていきます。目だたず、わからぬように……目だたず、わからぬように……。悪魔もまたそうです。」(P9)

「まるで埃のように」、これは人間の悪意と言い換えてもそんなに間違ってはいないだろう。
一応ミステリ作品ではあるものの、ミステリという皮を被った他の何かだと思えてしまうのは、おそらく、この作品が悪魔について書かれた小説だからだろう。



ミステリ作品は通常、誰が犯人かという謎が物語を牽引する、この作品も例外ではない。
4人の女医のうち誰が「悪魔」なのか、というのがこの作品における「謎」であり、その謎が読者の興味を繋ぎ、推理させ、物語を牽引し、ページをめくらせる。
読んでいて奇妙に感じてしまうのは、4人の女医のキャラ分けがいまいちできていないというか、見分けにくいところだ。
ある程度個性が設定されてはいるものの、骨はあるけど肉付けに乏しいという感じで、いまいち印象に残らない。
ただ、これも最後まで読むと、きちんとした伏線だったのだなと気づく。

犯人は意外な人物でならなければならない、これはミステリの鉄則だ。
意外な人物でなければ驚きも存在せず、驚きの存在しないミステリなど、果たして何の価値があるのか、という事になってしまう。
そういう意味では、この作品の真犯人に対して意外性を感じることはなく、ミステリとしてはどうかという感想が出てくるのも無理ないことだろう、しかし、自分としてはむしろ、驚きがない事自体が驚きである、と言いたい。
どういうことか。

なぜ真犯人が明かされても驚きがないのか?
それは意外性がないからだ、そしてなぜ意外性がないかといえばそれは、彼女がいかにも犯罪を犯しそうだからではない、4人のうち誰が犯人であっても違和感はないから、だからこそ驚きがないわけだ。
驚きがない事が驚きというのはつまり、心優しい女医たちのうち誰が犯人であっても、一向に違和感がないと思っている自分自身に気づいてしまうという事だ。
だからこそ、この作品には驚きがある、と主張したい。
いつの間にやら、女医の誰が悪魔であろうとおかしくないと、読者に思わせてしまうからだ。



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読み終わってからネット上の感想を読むまで、子供向けに書かれた本だとは気づかなかった。それほどまでにこの作品の本気度は高く、いい意味で大人気ない一作となっている。何よりも、子供相手にこういったシリアスで今日的なテーマを容赦なくぶつけるというその姿勢に敬意を表したい。そして、子供相手に本気で書いているというだけでなく、ひとつのミステリ作品として見ても充分優秀で、読むに値する作品だ。

この作品は、作者の得意とする市井の小さな英雄を描いた作品である。それと同時に、歴史に翻弄された人間を描いた作品でもある。
島田荘司はこういった歴史に翻弄された弱者を描くのがうまい。歴史の大きな波の前では頭が良かろうと優秀だろうと何だろうと、たいして関係ないのだなと思わせる。
「透明人間」という言葉に託された意味も最後に明らかになるのだけど、これがまた哀しい。なんともいえない読後感がある。哀しい気分になる。
子供向けの本なのに、こんな哀しい話、それも現代的な社会派テーマを真っ向から書いて勝負する作者には、いい意味でなに考えてんだコイツ、と思ったぞ。

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 ・長さ
ミステリ史上最大にして最長の作品として知られる本作は、長いにもかかわらず長いと感じさせないとても読みやすい作品だった。
おそらく、大多数の人が手にとる前にその長さを目にして躊躇するだろう、しかし、思いのほか、この作品は長いと感じさせない作品だった。
単純に面白いから、というのがその理由だが、不思議なくらいに読者の興味を引っ張り、ぐいぐい読みすすめてしまう奇妙な魅力に溢れている。
特に、一巻と二巻は、それぞれ独立したホラー小説として楽しめる構成になっており、こういった区切りのよさも、読みやすさに貢献しているのだろう。

さて、この作品はなぜこんなにも長いか、だが、あとがきで作者が書いているように、これくらいの規模の謎を描くためには、これだけの長さが必要とされたのだ。
要するに何が言いたいかというと、いたずらに長いだけというわけではなく、むしろ無駄がない引き締まった作品といってもいい、ということだ。
これは本当にもう、読んでくれなきゃ分からない事だけど、読んでいる最中は「長い!」とか「まだ終わらないの?」といったことは全くといってもいいほど感じなかった、すらすら読みすすめてしまう。
これだけ長いにもかかわらず、読者の興味をぐいぐい引っ張る作者の筆力には脱帽するしかない。


・悪の度合

また、真犯人のどうしようもないくらいの悪人っぷりも、もはやここまで来ると清々しいといってもいいくらいの悪っぷりで印象に残った。
悪に見えるけど色々な事情があるっ!、的な相対主義的な言説が全くといってもいいほど通用しないような、どっからどう見ても悪としか言いようのない悪なので、作中で描かれる残虐な殺人事件の数々に見合っており、奇妙な説得力を持っている。
こういった、人情やらヒューマニズムやらをまったく受け付けないような真犯人とその動機は、多少好みの別れる作風なのかもしれない、がしかし、俺は結構好きだ。
「悪」を描いた作品として見ても結構面白い。


・複雑な殺人とシンプルなトリック

ミステリに対する理想のひとつとして、複雑怪奇でとてもではないけれど解けそうにない事件が、シンプルで分かりやすいトリックによって成り立っている、というのがある。
複雑な事件を複雑に解くのならまだしも書くのは容易いだろう、しかし、複雑な事件を支えるのが、拍子抜けするほどシンプルなトリックによって成り立っているというのは、言うは安し行うは難しで、中々見かけないものだ。
この作品は、その理想をかなりの程度実現している。
本作のメイントリックは呆れるくらいに単純で、しかも中々思いつかないような意外性に満ちており、確実に読者を驚かせてくれる。
このメイントリックは、第三部辺りからかなりきわどいヒントを提示してくれるので、推理力に自身のある人は頑張って頭を働かせてみて欲しい、俺は無理だったけどね(笑)。


・まとめ

というわけで、これだけ長いにもかかわらず、全くといってもいいくらいに長いと感じさせず、すいすい読み進めることのできる作品だった。
読む前は、中盤あたりで中だるみしたり、読むのがめんどうくさくなったりするのかなあ、などと思っていたが、まったくそんなことはなかった。
多分、あまりにも長すぎて読むのを躊躇している人は結構いるのだろうが、そういった点に関してはまったく心配ないと断言してもいい。
これだけ長い作品にもかかわらず、長いと感じさせないという稀有な作品なのだから。
そして、全編読み終えると、この作品を表現するにはこれだけの長さが必要とされたということがよく分かってしまう。
だから、長さという点に関してはまったく不満はない、密度の濃い作品だった。

あとは、蘭子シリーズ未読の読者がいきなりこの作品を読んで大丈夫なのか、だが。
多分まあ、大丈夫だと思う。
出来れば一作目から順番に読んだほうがいいとは思うが、いきなりこの作品から読んでも…、理解に苦しんだりすることは…ないはずだ、多分。
ただ、出来れば一作目から読んだほうが理解しやすいと思う、これは何もシナリオやキャラに対する理解が深まるとかそういったことだけではなく、二階堂蘭子シリーズの「長さ」と「ノリ」に慣れてからの方がすらすら読めると思うんだよね、多分。
なので、いきなりこれから読んでも基本的には大丈夫だけど、ある程度蘭子シリーズに慣れたほうが、より楽しみやすいとは思う。

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二階堂蘭子シリーズは吸血の家から発表順に読み始めたのだけれど、短編長編含めて今までのところこれが一番面白かった。
このシリーズは、実に本格らしい本格と言うか、いかにも探偵小説という感じの直球の作風で、いかにもな探偵小説を読みたいと言う欲求に全力で答えてくれるのが好ましい。
この作品も、見立て殺人からはじまり宗教やオカルトに関する薀蓄、そして怪しげな館に住まう一族と、いかにもそれっぽい要素がふんだんに散りばめられている。

蘭子シリーズを今まで読んできて思ったのは、ミステリとしてしっかりしていると言うだけでなく、物語としてもしっかりしているという事だ。
ミステリ小説としてはもちろん充分合格な上に、それだけでなく、物語としても十分面白いというのが、このシリーズに対して好ましく思っている理由だ。
ときたま、ミステリとしては面白くても、物語としてはまあまあだったりする作品というのに出会ってしまったりするものだが、この蘭子シリーズは、両方の基準を余裕でクリアしている。

ミステリとして面白いだけでなく物語としても面白いものを、というのが、自分がミステリに求めているものなので、どうやらこのシリーズは自分の好みに合致しているようだ。
もちろんミステリオタクにとっては、物語として多少アレでも、ミステリとしての完成度が高ければそれで充分という事になるのかもしれないが。
自分の場合、確かにミステリは好きだが、ミステリオタクを名乗るほど好きではないと言う感じで、ただのファンに過ぎない、従って、あまりにガチガチのミステリ作品を読むとちょっとだけ引いてしまったりすることもある。
その点、この蘭子シリーズは色々な要素(ミステリとしての要素、魅力的な物語としての要素、そしてキャラ萌え)を豪勢にぶち込んだうえで非常にバランスの良い物語に仕上げており、ミステリ作家である以前に小説家としての腕の確かさを感じさせる。


さてこの『悪霊の館』だが、一言でいうと、二階堂風グリーン家殺人事件である。
なので、あの作品が好きなひとは何も言わずにさっさと読むべきである。
僧正殺人事件とグリーン家殺人事件なら後者を選ぶ人間なので、この作品には結構満足した。
殺人事件そのものの猟奇性や派手さもさることながら、舞台となるアロー館の雰囲気、うさんくさい登場人物、そして、読者に恐ろしさを感じさせる真犯人とその動機、そういったものから形作られる雰囲気の禍々しさが、何よりも心地よい。
これは魅力的なミステリである前に一流の物語であり、本格ミステリを敬遠しているような人にも読んで欲しいと思う。
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なかなか面白い作品だった。
作者の飛鳥部勝則は、自作の絵画を作中において登場させ、それに重要な役割を担わせるという特異な作風の作家らしい。
この人の作品はこれ以外だと、デビュー作の殉教カテリナ車輪くらいしか読んでいないけれど、いずれも面白かった。
さすがは自分で絵を書くだけはあり、絵画に対する薀蓄が多く、それが作中で起こる殺人事件と自然な形で結び付けられているので、読んでいて結構楽しい。
絵画ミステリとでもいうべき独特の作風で、『絵』の意味を読み解きつつ真犯人に迫るという作風は今回も健在だ。

孤島で起きる連続殺人、そして、死体の傍には必ずバベルの塔の絵が…、という感じでいかにも本格ミステリという感じだが、自分の場合、この作品の持つミステリ面よりも人物の魅力に心惹かれるものがあり、謎めいた神秘系ヒロインの志乃ちゃんが心に残った。
冒頭からいきなり登場する彼女だが、言動がやや電波系で奇妙な印象を読者にもたらす。
この、彼女のもたらす奇妙な印象、その神秘性は、全編を貫通するものであり、彼女自身が1つの謎である。
物語は、連続殺人の謎を解きつつも、平行して彼女の謎も徐々に明かされるという構造になっており、この二つの謎が読者を牽引する。
そして、物語の最期にいたって彼女の言動の謎が明かされるわけだが、それはあまりにもストレートすぎてまったく考え付かないような意外なものだった。
ひねりがまったく無いだけに思いつかないという感じで、お見事。
連続殺人の謎よりも印象に残ってしまった。

とまあそんな感じでミステリとして面白いというのもあるがそれ以上にヒロインの魅力が心に残り、自分にとっては萌える作品だった。
どうやらこの作者は、こういった神秘系ヒロインを書くのが得意らしく(ニコニコ大百科による)、他の作品を読むのが楽しみになった。
とりあえず、神秘系ヒロインと出会いたいって人は読んで損は無いんじゃないかな。



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