カラスっぽいブログ

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カテゴリ: 歴史



 子供向けに書かれたやさしくて読みやすい本だけれども、結構読み応えのある内容で、読んで良かったと思える本だった。この本の大胆なところは、序盤の天地創造やイヴとアダムのエピソードをばっさりカットして、まるでひとつの歴史物語であるかのように、ユダヤ民族の物語を描いているところだ。そういう意味では宗教臭が薄く、人間ドラマの部分が濃い。いわば、歴史小説を読むようなノリで読むことができる本なので、宗教・神話に抵抗があるような人でも、すらすらと読み進めることができるんじゃなかろうか。一応子供向けとなってはいるが、子供・大人関係なく、旧約聖書の入門書として優れた内容だと思うし、単純に読み物として面白い。個人的に印象に残ったのはダビデとアブサロムのエピソードで、やたら生々しいところが良かった。「アブサロム、アブサロム!」が、すごく頭に残る。

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一見するとパワーアップキットに見えるが、実質的にはほぼデータ集といった感じ。売る側が目玉としているのが、ありえたかもしれない幻の大和案をきちんとデータ化し、開始時点で建造中の大和型を任意の大和型に変えることができますよー、という点だが、個人的には正直言ってまったくヒットしなかったし、いまだにこの機能は一回も使ったことがない。また、商船リアルモードは太平洋戦記3発売後に発見された新資料に基づいて商船のデータが変わるという機能だが、これを実行すると商船やタンカーの個性が無くなってしまい、ごく一部の船種さえ使えばそれでオッケーとなってしまいそうで、この設定で遊ぼうという気力がわかない。唯一面白いというか実用的で買ったかいがあったなと思うのが、ドイツがくれる航空機の中のひとつJu87E艦攻だ。足が短いとはいえ圧倒的な破壊力と軽油消費の少なさで、基地攻撃に活躍してくれる。とはいっても、この内容なら千円ぐらいがちょうどよいのでは?、と思うし、あんま値段にみあわない内容だと思った。

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85点
人を選ぶゲーム…、といえばこれほど人を選ぶ作品もないだろう。
単純に難易度が高いからというだけではなく、また、扱っている題材がややマニアックだからというだけでもない。
ビジュアル面がしょぼく、人を選ぶというのももちろんあるが、しかし、そんなことはどうでもよいことだ、このゲームのもつ最大の…、そして最も人を遠ざけまたハードルが高いといわざるを得ない特徴に比べれば些細なことだ。

メモが必須のゲーム、この言葉だけでどれだけ多くの人をたじろがせてしまうのだろう?
それも、「メモが必須」という言葉から多くの人が想起するような、走り書き程度のものではなく、ちゃんとした「計画書」「予定表」をきちんと書いてそれとにらめっこしながら進めなければいけないゲームだ。
というか、メモはひとつだけでは足りない、細々としたことを書き付けておく普段使いのメモばかりではなく、兵器開発の順番と予定を書いた「開発計画」、艦戦建造の予定と目標を記した「建造計画」、大雑把な予定と侵攻作戦の概要を記した「作戦計画」、等々。きちんと戦争を遂行するためには、事前に計画を立て準備し、かなりガチめの本気メモを書かなければならない。

もうこの時点で、多くの人間が篩い落とされてしまうであろう。けれど、それでよいと思う。このゲームは、多くの人間に訴えかけるような作品ではなくて、SLG好きで兵站好きで内政好きでメモをとることを厭わないような、ごく一部の人間に向けられて作られたゲームなのだから。
従って、ちょっと興味があるとか、少しのぞいてみたいとか、なんか兵站ゲーをやってみたいとか、そういった軽い興味で購入すると、結構本気で後悔してしまうかもしれない。
なので、個人的にはこのゲーム好きだけど、あんま気軽に薦められないよなぁ…的ジレンマに陥らざるを得ない。



・どんな人に「むかない」のか?

まあ、とりあえず、このゲームにむかない人はどんな人なのかを以下に列挙してゆきたい。

・マニュアルを通読する気力がない人。
 (マニュアルにはほぼ全てが書いてある。戦闘の計算式まできちんと書いてある。なのでこれを読まずにこのゲームに挑むのは蛮勇以外の何者でもない。自分は二回通読しました。)
・とにかくたくさん戦いたいって思っている人。
 (ショートシナリオのみ遊ぼうって考えてるなら問題ないかも。)
・SLGの内政が苦手だったり嫌いだったりする人。
 (華やかな戦いよりも、戦いの準備が九割を占めるという兵站ゲーなので。)
・チマチマしたことが苦手な人
 (輸送船団の編成や航空機の移動に物資の輸送など、チマチマした作業ばかり。それを楽しめるかどうか。)
・航空機を飛ばすのにわざわざ軽油が必要と聞いてイラっとした人。
 (前作太平洋戦記2は、船も航空機も同じ資源で動かすことができたが、今作は船用の重油と航空機用の軽油に分かれているというマニアックさ。)

大体こんな感じだろうか。
上に列挙したものにひとつでも当てはまった場合、このゲームを購入して後悔する可能性が高い…と思う。

そういうわけで、もし購入を考えている人がいるとしたらなるたけ慎重に考えたほうがいい。このゲームを楽しむためには多くのハードルを越えねばならず、その人間の適正が試されるからだ。




・究極かもしれない兵站ゲー

兵站を扱った有名ゲームと聞かれ、たいていの人の頭に思い浮かぶのは艦これだろうか。
艦これはちょっと触れたことがあるんだけど、ほとんど運ゲーなのですぐ飽きてしまったので、あまり詳しくはない。キャラは好きだけど。

まあそういうわけであんまり艦これのシステムに詳しくないんだけど、確かにそこそこ兵站ゲーだったなあ、という印象はある。
うろ覚えだけど、4種類の資源があり、建造・修理・出撃といった行動をする際、それぞれの資源を一定数消費する、みたいなシステムで、空母や戦艦は出撃するだけでも結構な資源を消費する…、とかそんな感じだったと思う。
この資源は、なにもしなくてもリアル時間が経過すれば少しずつ回復するが、回復手段はそれだけでなく、船を遠征に派遣することによって回復することも可能…だったはず。

兵站ゲーと言われているけれど、そこまでややこしい作品ではないし、かなり気軽な気持ちでサクッとプレイすることができるし、当然のことながらメモをとったり電卓を叩いたりする必要もない。なので、そこまで兵站ゲーって言うほどか?、とやや疑問を感じることもないが、まあ、お手軽兵站入門ゲーとして考えれば、これはこれでアリかもしれないとは思う。

太平洋戦記3の場合、資源・物資の種類が全部で9種類と多い…だけではない。資源の中にはきちんと加工しなければ何の役にも立たないものもあるのだ。
たとえば鉄は鉄鉱石を加工することで作る、アルミはボーキサイトを、軽油と重油は原油を、と言う風に基本的には、なにかを工場で加工しないと資源を得ることはできない。


鉄鉱石→鉄→弾薬・船の建造・航空機の生産・工場増築・等々

ボーキサイト→アルミ→航空機の生産

原油→軽油→航空機の運用に必要
  →重油→艦船の運用に必要

セメント→工場や資源の増築・陣地増築と飛行場の拡張

と、こういった次第で結構めんどくさい。


そして資源・物資の種類が多くめんどくさいというだけではない、基本的にゲームのパラメーターが史実よりなので、資源の産出量がめっちゃシビア、というところも、このゲームが兵站ゲーである理由のひとつだ。



このゲーム、出てくる艦船の一つ一つに燃費というパラメーターが設定されており、文字通りその船がどれくらい重油を食うかを示している。


参考に日本軍の艦艇の燃費データをあげてみる。以下の数字は、多ければ多いほど燃費が悪いと言うことを示す。

大和 189
赤城 158
翔鶴 111
妙高 77
天龍 40
吹雪 27
  23
丙型海防艦 4
丙型潜 12
高速タンカー50
低速タンカー14

とこんな感じになっている。当たり前だけど主力艦であればあるほど燃費が悪く、重油をガンガン消費することになる。
では、この燃費というデータがあり、そして、このデータの格差が激しいということは、ゲーム内においてどんな結果をもたらすかと言うと、戦艦・空母を用いた艦隊運用は、ここぞというときしかできないと言うことだ。
重巡以下の艦艇はともかく、戦艦・空母は少し活動させるだけで重油が目に見えて減るため、普段は母港で何もせず待機ということがほとんど。
敵艦隊と決戦するとか、敵基地を攻略するとか、そういう時以外は母港でおとなしくしていてくれないと重油が減って困るわけで、ゲーム中においては、クリアまでの総ターン数の七割から八割くらいは何の活動もしない、ということになる。

しかしこのことは逆に、他のゲームだと能力がいまいちで使えない艦でも、燃費さえ優秀なら、このゲームだと活躍できるということになる。
代表的なのは海防艦だ。
海防艦を登場させたゲームというと、あまり見たことがないし思いつかない。しかし、それも無理はない。速度は遅いし武装は貧弱、取り柄といえるのは対潜能力とコストが安いところだけ、という感じで、ゲームに出してもかなり微妙なユニットになってしまうことは明らかだからだ。

しかし、太平洋戦記3においては燃費がデータ化されている。
この「燃費」という面から見ると海防艦は超優秀な艦種であり、誇張なしに本作品の主役は海防艦である、と断言してもよい。
というか海防艦なしではクリアはおぼつかないし、最低でも100隻以上は生産することになるし、輸送船団の護衛で年柄年中活躍するわけで、どこからどうみても主役だし、海防艦なしでクリアするのは…かなり難しいと思う。



・覚悟してから買え

まあそういうわけでとにかくハードルの高いゲームだし、いい意味で地味なゲームなので、向き不向きがズバッとわかれる…、いやそもそも向く人はかなりの少数派になるだろうと思われる。
というか、この列島で太平洋戦記3を楽しんでる人って4桁いるんだろうか?下手したら3桁しかいないんじゃなかろうか…、と。わりと本気でそんなことを思ってしまう。

とまあそんな感じの超マニアックなゲームなので、少し興味がわきましたみたいな感じの軽い理由なら、購入することはおすすめできない。高い買い物だし、買った後で放り投げた人も結構いると思うので、なるたけ慎重になったほうがいい。

このゲームに自分が向くか向かないかを判定するためには、前作の太平洋戦記2を買ってプレイしてみてそれで判断するという方法もある。
なにしろ、太平洋戦記2は廉価版も出ていることもあり値段が安い。ゲームの内容も太平洋戦記3に比べれば簡易で単純だ。なので、とりあえずこっちに手を出して、楽しむことができたなら、あらためて3に手を出すという方法がいいんじゃないだろうか。

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吉川弘文館の人物叢書は、そんなに高い値段ではないものの、なんだか雰囲気が専門書っぽいなと敬遠していたが、薄い本なら通読できそうと思いこの本を手に取った。
ページ数はほんの150ページほどで、付録を抜かすと本編は約120ページ、だからというわけでもないが普通に読み通すことができた。
もちろん、これは短いから読みやすいというわけではなくて、本の内容そのものが平明で分かりやすく、ザビエルの人物像が伝わってくるような魅力的な伝記であったことが主たる原因だ。

若干文章が古臭いと感じることがあるものの、読みやすさを阻害することはなく、むしろ文体にたいするよいスパイスになっていると思う。中身についてみても、きちんと物語になっており、枝葉末節を延々と論じるということもなく、普通に読みやすい。
この読みやすさはもしかしたら、本の短さが要請したものかも知れないが、ザビエルの生涯をコンパクトに無駄なくまとめ、しかも読み物として普通に面白いという、コストパフォーマンスならぬページパフォーマンスにすぐれた一冊だと思う。
伝記を読んだ事はほとんどないから比較できないけれど、すぐれた本ではないだろうか。

内容はと言うと、基本的にザビエルの行動を記述しその死まで描くという感じで、彼の神学や思想についてはほぼスルーしてある。どういった信仰を持ちどのような思想を抱いていたか。日本で布教したことによって、その思想に変化があらわれたのか、それとも日本からの思想的影響はほとんどなかったのか、こういったことに関してはほとんど記述がなく、読み終えて不満を感じる人もいるだろう。
分量を考えれば、こういった思い切った選択は止む得ないとは思うが、出来れば、もう少し分厚くなっても良いので、彼の信仰と思想について記述して欲しかったと思う。

とはいえ、著者の文章と描写はなかなかに魅力的で、ザビエルに対する愛着を感じるし、先述したこの本の欠点も見ようによっては余計な事を省いてわかりやすくしてあると捉える事もできるので、あながち欠点ではないのかもしれない。
とにかく、伝奇である歴史書であるという前に、魅力的な読み物であったというのが自分の感想で、ザビエルについて知ることができてよかったというよりも、よい本に出会ったという感じが強い。

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教科書的なというかモロ教科書な本。
大学の講義で使う事を想定して作られた本なので、一節一節の長さがちょうどよく、長さ的な意味で読みやすい。内容も、基本的には基礎知識の伝達に重きが置かれているため、あまりマニアックな内容に偏することはない。それに、教科書といっても、だらだらと史実を積み重ねるようなタイプの冗長な叙述ではなく、テーマごとに叙述するというタイプなので、読みにくいという事はないし、興味のあるところから読むというスタイルで読み進めることができる。
教科書ではあるが、一応読み物としても合格という感じの本で、すごく面白いという事はないが、だからといって読むのが苦痛というわけではなく、基礎知識を摂取したり事実を確認するうえでは十分役に立つと思う。と言っても、それでもまだ、固有名詞多すぎかな?、と思う部分はある。
これが、古代ギリシャのようなある程度予備知識のある時代だとさして気にならない、しかし、古代エジプトや古代オリエントといった、あまり知識のない時代だと、固有名詞の多さに辟易することがあり、ここはもう少し何とかして欲しかった。

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辻邦生の背教者ユリアヌスはいつか読もうと思っている歴史小説のひとつなのだけれど、この著者は若い頃にそれを読んで大きい感銘を受けこの研究の道に踏み出した、という人らしい。
いつか読む予定の辻邦生作品の予習で読んでみたというのもあるけれど、それ以上に興味深いと思っていたのは、キリスト教が国教化した後の時代にもかかわらずわざわざ異教を復活したという、空気の読めなさというか、何をやりたいのだこいつは感だ。
一言でいってしまえば反動という事になるだろうし、わざわざ歴史の針を逆に進めるようないまいち建設的とは言えないイメージを持っていて、けれどもしかし一方では、あえてキリスト教にノーを突きつけるその姿勢にはちょっとだけ萌えるものもあったりする。
まあ、たいした知識もないし、そもそもキリスト教を国教化した皇帝の名前も知らないくらいで、さして知識があるとはいえない。だから、要するにイメージといえるようなものもなく、ただ漠然とした興味、街中で見かけたちょっと変わった人に対して、この人はどんな人なんだろうという、その程度のものしか持っていないといえばいえる。

さて、この本の副題には『逸脱のローマ皇帝』とある。
著者はユリアヌスをローマ皇帝のスタンダードから逸脱しまくった存在として描く。
ユリアヌスは宗教的思想的側面から光を当てられることが多いらしいが、この本はあえて彼の統治者としての側面から光を当てていくと著者は述べている。
背教者としてのユリアヌスではなく、皇帝としてのユリアヌス、がこの本の眼目らしい。
おかげで、ユリアヌス初心者の自分でもサクサク読み進めることのできる手軽でコンパクトな良質な伝記に仕上がっていると思う。
宗教的側面に片寄ることなく、生い立ちから死まで、皇帝としての軌跡を描く事に傾注しており、大変読みやすい、生涯が短いからというのもあるが。

この本を読んで持ったユリアヌスに対する印象は、実務能力を持ってしまっている哲学青年、という感じだ。
実務能力のさっぱりない哲学好きの引きこもりだったならば、むしろその方が長生きできて、そこそこ幸せに暮らすことが出来たんじゃなかろうか、という気がする。
また、野心家であると同時に理想家でもあって、哲学的な生き方を民衆に強要しようとするところなんかは、何だかんだ言ってもやっぱり哲学好きの人間なんだな、と。ホントに優秀な政治家ならばそんなアホな事はしないだろうになぁ、と、思ってしまった。
まあそういうところがお茶目というか何というかこの人物の魅力でもありまた、悲劇性を喚起する所以でもあるのだろう。

『背教者ユリアヌス』の予習のつもりで読んだけど、既成のユリアヌス像、特に辻邦生的なユリアヌスに対して少しばかり異を唱えるというスタンスなので、むしろ『背教者ユリアヌス』を読んでからのほうが楽しめたんじゃないか、という気がする。読む順番間違ったかな?
といっても薄っぺらい本で手軽に読めるので、『背教者ユリアヌス』を読了したあとにもう1回読んでみようかな、と思っている。その時はどんな感想を抱くのか、そして、自分の中のユリアヌス像がどんなイメージになっているかが、楽しみだ。

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茶人利休と秀吉との確執を描いた作品。
勅使河原宏監督作品は初めてなんだけど、予想していたよりもわかりやすく普通に鑑賞する事ができた。もう少しアートっぽい作風なのかなって思ってたんだけど、さいわいそんなことはなく、重厚な歴史映画、という感じ。
ただ、ある程度日本史の知識がないと辛いかなと、思う部分はある。
少なくとも、信長と秀吉に関する基礎知識くらいはないと、ちょっとついていけないかもしれない。従って万人向けとは言い難い内容だが、主人公が利休でテーマが茶道なので、この映画に興味持つ人って、ある程度歴史の知識がある人だと思うんだよね、だからこれくらい不親切でも、まあいいかなという気はする。

秀吉と利休、というテーマを扱った作品というと、真下が監督した『へうげもの』くらいしか知らないので、この作品が利休秀吉作品を扱った作品としてどんな立ち位置なのか、どれくらいの出来なのか、という事は判断できない。しかし、この作品で描かれる利休が、非常に一般的というか、おそらく正統的な利休像であろうことは、自分にもわかる。
基本敬語系で、物静かで、謙虚、という感じの茶人利休を描いており、いかにもという感じだ。
秀吉のほうも秀吉で、非常に秀吉っぽい感じ。
冒頭において二度、秀吉の足元がアップで映されるんだけど、金の足袋をはいているんだよね、いかにも秀吉っぽい。あと、飯の食い方が粗野なところとかも、印象深かった。
要するに、いかにもな成り上がりものとして、利休とは対照的に描かれているわけだが、これも非常に一般的というか、ごくまっとうな秀吉像であり、奇を衒った部分はない。

まあ、要するにおおざっぱにこの作品を説明すると、重厚で正統的な歴史映画っ感じだった。
意外性とかはあんまりないんだけど、画面の持つ美しさと俳優の演技に見ごたえがあり、なかなか面白かった。
特に、山崎努の演じた秀吉は怪演といってもいいくらいの迫力と存在感があり、この人の演ずる秀吉をもっと見たいと思わせる。
利休の弟子の態度に激怒して、処刑を申しつけるシーンなんかは、いかにも権力者って感じの狂気じみた迫力があって印象深い。演技っていうより、顔の迫力がすごいんだよね、顔の演技っていうべきかな。
このシーンだけでなく、全体的に、いかにも最高権力者って感じの、不遜さ我儘さ、そして人の話を聞かないところ(笑)、が良く描かれていて、これは映像作品独自の「感じ」だなあと思ったね。

あと最後にひとつ、すごく印象に残ったのは、松本幸四郎演じる信長がやたら印象に残った。
信長の持つ狂気じみた感じがよく出ており、あの独特の高笑いが耳をついて離れない。
出番はほんの十分かそこらなんだけど、この幸四郎信長はやたら存在感があり目だつ、そして印象に残る。もっと見たいなと思わせる怪演だった。

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リブレットらしい、一つのテーマに絞って書かれた大変わかりやすく読みやすい本。
タイトルにあるとおり、当時のヨーロッパ人の文明観と、その価値観を支えた啓蒙とは何か、について書かれている。

啓蒙とは何か、という要するに当時のヨーロッパで流行っていた考え方をわかりやすく解説したあとに、非ヨーロッパ世界へ広がり行く膨張するヨーロッパについて解説。
そして、彼らヨーロッパ人の目に非ヨーロッパはどう映ったかを「ガリヴァー旅行記」と「ロビンソン・クルーソー」を用いて描き、最後に、彼らの偏見を科学がどう保障したのか?、を書いて終わる。
話の流れ自体がスムーズな上に、余計な要素がなくすらすらと読み進める事ができる、良著といってよいと思う。

この時代のヨーロッパ、彼らの価値観や文明観に興味がある人は読んでみるべきだろう。
特に、なぜ啓蒙のヨーロッパから植民地主義のヨーロッパへ移行してしまったのか、啓蒙と差別は矛盾しないのか?、という疑問を持っている人はぜひ読むべきだと思う。


啓蒙というと要するに、蒙を啓く、ダメな状態からよりよき状態になる、あるいはさせるという感じで、問答無用のプラスの概念というイメージがあると思う。
たいして差別というのは、啓蒙された人間のイメージからは程遠い、むしろ蒙が啓かれていない状態の人間というイメージだ。
この本を読んでそれこそ蒙が啓けたかも知れないなと思ったのは、啓蒙的な世界観が差別を助長しかねないという事、もっと言ってしまえば、啓蒙と差別は表裏一体かもしれないという事で、自身が啓蒙された段階にあるから差別をしないかというと、そうとは限らないわけだ。
この本を読むと、啓蒙という言葉に潜まされた傲慢さに気付くことが出来る。

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タイトルどおりに「歴史」がいつごろ発明され、そしてどんな記述をされたかという、歴史記述の変遷と種類を描いた本。

「歴史」という言葉に対して発明という言葉を使ったが、これはおそらく奇妙な言いまわしとして映るかもしれない、しかし、これには理由がある。
昔読んだこの本と似たようなテーマの本で岡田英弘の「歴史とは何か」という本があり、その中で歴史というものは紙や火薬と同じような発明品であり、「歴史」を発明しなかった民族がいてもおかしくない、みたいなことが書いてあって、深く印象に残った。
その本によると、歴史を「発明」したのは古代中国と古代ギリシャ、具体的に言えば司馬遷とヘロドトスの二人であり、それ以外は基本的に真似である、と。
例えば日本は中国に対抗するために歴史を必要としたし、イスラムはキリスト教圏に対抗するために必要とした。
だから、必要としない民族がいてもおかしくないし、歴史を持たない民族がいてもおかしくない、と。



「歴史意識」とは要するに何故歴史を必要とするのかという動機のことであり、「歴史記述」とは動機に応えてもたらされた記述のスタイルの事だ。
もちろん、「歴史意識」が違えば必然的に「歴史記述」も違ってくる。
この本では意識と記述、このふたつをセットで語ってくれるのでたいへんわかりやすい。
もちろんリブレットで薄い本なので、正直言ってもの足りないという感じはあるが、古代における歴史意識の多様さを、ある程度見渡す事ができる。

特に印象に残ったのは、②メソポタミアとエジプト、におけるもうほんとに萌芽って感じの歴史記述の紹介、これが面白かった。
例えば、出来事で名をつけるってのが、どうやら最も古い歴史記述の形らしい。戦争があった年、とか、疫病があった年、とか。
それが少し発展すると王名表って言って、王が即位してから一年ニ年と数えるようになったりする。
そして、この王名表も地域によって違いがありそれぞれ個性があるというのが面白い。


あんまり、こういったテーマを描いた一般向けの本って見かけないので非常に興味深く読み進めることができた。
分量が薄いのでややもの足りないという感じはあるが、こういったテーマに対する入門書としては充分合格だと思う。
地域ごと文明ごとに、このテーマで一冊ずつ本を出して欲しいと思う、できればリブレットで。



分かり易い紹介と要約
『歴史意識の芽生えと歴史記述の始まり』 たかぱんワイド



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日本におけるキリスト教あるいは、キリスト教の日本に対する影響と交流というテーマなら本を探すのに苦労することはないだろう。しかし、日本ではなく、中国やインドのとなると、これはなかなか苦労するのではないだろうか。
本書はタイトルどおりに、中国とキリスト教の交流を描いた、珍しい本である。
といっても、リブレットの一冊なので、その「範囲」は限られている。

具体的に言うと、16世紀以降の話に限られる。ネストリウス派の話などは、ほんの一行か二行くらいしか出てこない。そして、中国思想に対するキリスト教の影響というものもほとんど描かれていない。あくまで「交流史」に限定されているという感じで、中国がキリスト教に対しどんな態度を取ったのかということを、年代順に丁寧に語っているという感じだ。
人名にしろ事件名にしろ、初めて聞くものばかりで非常に興味深い内容だ。
特に海禁政策をとり、キリスト教に対して厳しい姿勢をとった日本とは違い、中国のキリスト教に対する態度は開かれており、西洋人であるにもかかわらず役人になった人間もいると聞いてはただ驚くばかりだ。
もちろん、その一方で弾圧されるときはやっぱり弾圧されて、獄に繋がれてしまったりするわけだが、その一方で後世になったら名誉回復されたりするあたり、やはり日本とは違う。

ただ、こういった記述を読んでいて思うのは、なぜ清は近代化に失敗して滅び、近代日本は成功したのか、ということだ。
結末を知らずに、18世紀までの日本と中国の西洋及びキリスト教に対する反応を比べれば、おそらく大抵の人間は、近代化に成功するのは中国(清)であり日本ではないと判断するのではないだろうか。
しかし、結果は逆になった。これはよくよく考えると不思議なことではないだろうか?
この本では、そういったテーマには触れるどころか示唆されることさえない、しかし、この本を読んで改めて考えてみるとそういった疑問が湧いたりするのだ。

最後の章においては、西洋に対する中国文化の影響が語られる。
日本の西洋に対する影響というと、文化的・芸術的なものに限られるのだろうが、中国の場合はそれにとどまらず、広い影響を与えたらしい事がわかる。
中国という巨大な文明そのものに対する憧れみたいなものがあったらしく、ヨーロッパ人が中国人を演じたり、中国人が主人公の演劇もあったらしいとは驚きだ。
そして、かつては中国に対して憧れを抱いたヨーロッパ人が、しだいに中国侮蔑へと転じアヘン戦争が勃発する事によって中国にとっての近代が始まる。



タイトルどおりの内容だったので、初めて知ることばかりで面白かった。
通常、キリスト教というと西洋におけるキリスト教か日本におけるキリスト教というテーマになりがちで、日本以外の非キリスト教圏の文明とキリスト教との交流というテーマは、あまり見かけない。
それだけに新鮮な気持ちで読むことが出来たし、もっと他にこういったテーマの本が出ればよいなぁと思った。
「インドとキリスト教」とか、「イスラム圏にとってのキリスト教」とかね、そういうテーマの本をリブレットで出して欲しい。


参考になる
イエズス会と中国知識人/ザビエルの音景


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実質的には井沢元彦による薩摩史とも言える本。
島津の歴史を薩摩隼人にまでさかのぼって記述し、最後は近代における西郷の死で終わるという内容だが、書きたかったのは幕末における薩摩藩と西郷であり、前半部分は、幕末を描くための前史であり前置きであると、著者は言う。
何故そんなに長い前置きが必要かといえば、ひとつには薩摩藩そのものがたどってきたユニークな歴史にあるし、もうひとつは、現代人には分かりにくい朱子学の毒を、丁寧に説明しなければならないからだ。
というわけで、幕末へ繋がる物語として、古代から江戸末期までの薩摩の歴史が紡がれてゆくわけだが、これが本題でないにも関わらずとても面白い。
薩摩というと、日本史においてはあまり重要な役割を演じない周辺地帯という印象で、幕末における活躍以外で薩摩という土地が話題になったことはないのではないだろうか。
日本史全体からはマイナーといってもいい薩摩史は、初めて知ることも多く新鮮な印象をもたらす、特に、家康はなぜ島津に琉球征服を命令したのか?、という謎に対する井沢元彦の推理が非常に冴えていて、面白かった。

後半あたりからは一転して朱子学の説明に入る、いや正確に言えば、日本史に及ぼした朱子学の毒編とでもいうべきか。
この、朱子学に関する説明は、今までの井沢元彦の著作で散々説明されてきた事なので、特に目新しさはなく、まるで復習のような気分で読み進めた。
もちろん、この朱子学の説明も長い前置きの一部であり、これは西郷の征韓論にも繋がってゆく話なのだが、あまり詳しく書くと購入意欲をそぐかもしれないので、詳しく知りたい人は自分で読んでみてください。

とにかくこの本は、幕末における薩摩藩と西郷にだけ焦点を絞った良書だと思う。
こういった、ある特定の地域にだけ絞った歴史の本というのはあまり見ないので、そういった意味でも新鮮だった。
もちろん、来年から始まる大河ドラマを見据えての出版だろうけど、島津・薩摩・西郷、このうちどれかひとつにでも興味があるならば、読んで損はないと思ったね。

あと最後に、『中韓を滅ぼす儒教の呪縛』でも似たようなこと言ってたけど、
「しかし、ここで私、井沢元彦は断言しておこう。これこそ中国を大きく変えた中国史上最大の事件であると。儒教が新儒教(朱子学)に変わったのも、靖康の変以前と以後で中国人、特に漢民族の考え方が徹底的に変わったからである。若い読者は覚えておいてほしい。五年後になるか一〇年後になるか半世紀後になるかわからないが、この靖康の変が中国を変えた最大の事件であるという意見は今でこそ私の個人的主張に過ぎないが、いずれは学会の定説になるはずである。」(P137)
と書いてあったので一応引用しておきます。(笑)


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井沢元彦の儒教にたいする考えの「まとめ」のような本。
正直言って、いままでに井沢元彦の歴史書を読んできた身からすれば、特に目新しい部分は無く、今までの本で語られた儒教に対する見解をわかりやすくまとめた、という印象が強い。
したがって、ここが良いとか、この見解が新鮮だったというのはなく、井沢元彦の儒教に対する考え方をおさらいするという感じの印象だった。

もちろん、井沢元彦をあまり読んだ事が無いという人は、この本を読めば、いろいろと教えられる事が多いだろうし、新鮮な印象を受けるだろう。
そして、儒教や朱子学について知りたいという人にもお勧めだ。
とにかく、井沢元彦という人は、「宗教」をわかりやすく解説させたら抜群に上手い人なので、わかりやすさという点については保証できる。


本の内容についてだが、タイトルとややずれる部分がある。
まず、タイトルに儒教とあるが、この本で取り上げられているのは、古いほうの儒教ではなく新儒教とでもいうべき朱子学のほうだ。
これは著者の解説によれば、
「孔子の説いた儒教ではほのぼのとしていたことを、新儒教はもの凄く極端にしてしまった」(P47~P48)
のだそうだ。

それともう一つ、中韓とあるが、中韓よりも日本の話が多く、全体の3分の2以上を占める。
従って、この本のタイトルを内容に即して名付けるならば、「日本における朱子学の毒」なんかが適当じゃないかな、と思う。
本と中身が若干ずれることは時たま見受けられるが、商売のためには仕方が無いとはいえ、もう少し正確なタイトルをつけるようにしてほしい。



あと最後に、井沢さんがこの本の中で、
「この一連の悲劇を靖康の変(一一二七年)といいます。今はあまり注目されていませんが、今後、中国を変えた大事件としてクローズアップされると、私は確信しています。ぜひ、二〇一七年の時点で井沢がそういっていたとご記憶ください。」(P53~P54)
と書いていたので一応引用しておきます。(笑)



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