読み終わってからネット上の感想を読むまで、子供向けに書かれた本だとは気づかなかった。それほどまでにこの作品の本気度は高く、いい意味で大人気ない一作となっている。何よりも、子供相手にこういったシリアスで今日的なテーマを容赦なくぶつけるというその姿勢に敬意を表したい。そして、子供相手に本気で書いているというだけでなく、ひとつのミステリ作品として見ても充分優秀で、読むに値する作品だ。

この作品は、作者の得意とする市井の小さな英雄を描いた作品である。それと同時に、歴史に翻弄された人間を描いた作品でもある。
島田荘司はこういった歴史に翻弄された弱者を描くのがうまい。歴史の大きな波の前では頭が良かろうと優秀だろうと何だろうと、たいして関係ないのだなと思わせる。
「透明人間」という言葉に託された意味も最後に明らかになるのだけど、これがまた哀しい。なんともいえない読後感がある。哀しい気分になる。
子供向けの本なのに、こんな哀しい話、それも現代的な社会派テーマを真っ向から書いて勝負する作者には、いい意味でなに考えてんだコイツ、と思ったぞ。

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