今まで読んだ作品のなかでは、「頼子のために」「一の悲劇」「法月綸太郎の冒険」あたりが思い浮かぶが、いずれも後味の悪い傑作ばかりで、悲劇性は悲劇性でも、爽やかさなどは皆無、ぐちゃっとした読後感が売りの作家、というイメージだ。
この作品も確かに、悲劇といえば悲劇だが、しかし、後味の悪さは少なめの切ない系の悲劇であり、上にあげた諸作品のような、「ぐちゃ」っとした読後感などは皆無だった。まっとうな悲劇だと思う。
いきなり二人称で始まる取っつきの悪さや、その割には二人称という仕掛けがそこまで上手く機能しているようには思えない、とか、そういった欠点がないわけではない。
がしかし、そういった欠点はあまり大きいものには見えない、小さな傷のようなものだろう。
そういった小さな欠点を補ってあまりある長所がこの作品にはあり、諸手を挙げて素晴らしいとまでは言わないが、全体的に見れば良作の部類だと思う、ミステリとしても、悲劇としても、だ。
この作品を一言で表するならば、バッドエンドの物語という言葉が相応しいかも知れない、もっとも、これは自分がエロゲーマーだから、こんな表現をしてしまうのかもしれないが。
美少女ゲームにおけるバッドエンド、を思わせるものがある。丁寧に気合いを入れて描かれたバッドエンドの物語。ほんの少しの選択ミスで、人が死にそして絶望する。ほんのちょっとしたボタンの掛け違いに過ぎない。違う選択肢を選んでいたら、甘酸っぱいラブコメが展開されたであろう。そう予想するのは容易いことだ、そして無理のない想像だ。この物語は、本来ならばラブコメだったのかも知れない、そう思わせるものがある。これは別に、作者が本来は恋愛小説を書こうとしていた、とかではなくて。
わかりやすい良い紹介
闘争と逃走の道程 小説『二の悲劇』法月綸太郎
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