カラスっぽいブログ

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カテゴリ:歴史 > 日本史



吉川弘文館の人物叢書は、そんなに高い値段ではないものの、なんだか雰囲気が専門書っぽいなと敬遠していたが、薄い本なら通読できそうと思いこの本を手に取った。
ページ数はほんの150ページほどで、付録を抜かすと本編は約120ページ、だからというわけでもないが普通に読み通すことができた。
もちろん、これは短いから読みやすいというわけではなくて、本の内容そのものが平明で分かりやすく、ザビエルの人物像が伝わってくるような魅力的な伝記であったことが主たる原因だ。

若干文章が古臭いと感じることがあるものの、読みやすさを阻害することはなく、むしろ文体にたいするよいスパイスになっていると思う。中身についてみても、きちんと物語になっており、枝葉末節を延々と論じるということもなく、普通に読みやすい。
この読みやすさはもしかしたら、本の短さが要請したものかも知れないが、ザビエルの生涯をコンパクトに無駄なくまとめ、しかも読み物として普通に面白いという、コストパフォーマンスならぬページパフォーマンスにすぐれた一冊だと思う。
伝記を読んだ事はほとんどないから比較できないけれど、すぐれた本ではないだろうか。

内容はと言うと、基本的にザビエルの行動を記述しその死まで描くという感じで、彼の神学や思想についてはほぼスルーしてある。どういった信仰を持ちどのような思想を抱いていたか。日本で布教したことによって、その思想に変化があらわれたのか、それとも日本からの思想的影響はほとんどなかったのか、こういったことに関してはほとんど記述がなく、読み終えて不満を感じる人もいるだろう。
分量を考えれば、こういった思い切った選択は止む得ないとは思うが、出来れば、もう少し分厚くなっても良いので、彼の信仰と思想について記述して欲しかったと思う。

とはいえ、著者の文章と描写はなかなかに魅力的で、ザビエルに対する愛着を感じるし、先述したこの本の欠点も見ようによっては余計な事を省いてわかりやすくしてあると捉える事もできるので、あながち欠点ではないのかもしれない。
とにかく、伝奇である歴史書であるという前に、魅力的な読み物であったというのが自分の感想で、ザビエルについて知ることができてよかったというよりも、よい本に出会ったという感じが強い。

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茶人利休と秀吉との確執を描いた作品。
勅使河原宏監督作品は初めてなんだけど、予想していたよりもわかりやすく普通に鑑賞する事ができた。もう少しアートっぽい作風なのかなって思ってたんだけど、さいわいそんなことはなく、重厚な歴史映画、という感じ。
ただ、ある程度日本史の知識がないと辛いかなと、思う部分はある。
少なくとも、信長と秀吉に関する基礎知識くらいはないと、ちょっとついていけないかもしれない。従って万人向けとは言い難い内容だが、主人公が利休でテーマが茶道なので、この映画に興味持つ人って、ある程度歴史の知識がある人だと思うんだよね、だからこれくらい不親切でも、まあいいかなという気はする。

秀吉と利休、というテーマを扱った作品というと、真下が監督した『へうげもの』くらいしか知らないので、この作品が利休秀吉作品を扱った作品としてどんな立ち位置なのか、どれくらいの出来なのか、という事は判断できない。しかし、この作品で描かれる利休が、非常に一般的というか、おそらく正統的な利休像であろうことは、自分にもわかる。
基本敬語系で、物静かで、謙虚、という感じの茶人利休を描いており、いかにもという感じだ。
秀吉のほうも秀吉で、非常に秀吉っぽい感じ。
冒頭において二度、秀吉の足元がアップで映されるんだけど、金の足袋をはいているんだよね、いかにも秀吉っぽい。あと、飯の食い方が粗野なところとかも、印象深かった。
要するに、いかにもな成り上がりものとして、利休とは対照的に描かれているわけだが、これも非常に一般的というか、ごくまっとうな秀吉像であり、奇を衒った部分はない。

まあ、要するにおおざっぱにこの作品を説明すると、重厚で正統的な歴史映画っ感じだった。
意外性とかはあんまりないんだけど、画面の持つ美しさと俳優の演技に見ごたえがあり、なかなか面白かった。
特に、山崎努の演じた秀吉は怪演といってもいいくらいの迫力と存在感があり、この人の演ずる秀吉をもっと見たいと思わせる。
利休の弟子の態度に激怒して、処刑を申しつけるシーンなんかは、いかにも権力者って感じの狂気じみた迫力があって印象深い。演技っていうより、顔の迫力がすごいんだよね、顔の演技っていうべきかな。
このシーンだけでなく、全体的に、いかにも最高権力者って感じの、不遜さ我儘さ、そして人の話を聞かないところ(笑)、が良く描かれていて、これは映像作品独自の「感じ」だなあと思ったね。

あと最後にひとつ、すごく印象に残ったのは、松本幸四郎演じる信長がやたら印象に残った。
信長の持つ狂気じみた感じがよく出ており、あの独特の高笑いが耳をついて離れない。
出番はほんの十分かそこらなんだけど、この幸四郎信長はやたら存在感があり目だつ、そして印象に残る。もっと見たいなと思わせる怪演だった。

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実質的には井沢元彦による薩摩史とも言える本。
島津の歴史を薩摩隼人にまでさかのぼって記述し、最後は近代における西郷の死で終わるという内容だが、書きたかったのは幕末における薩摩藩と西郷であり、前半部分は、幕末を描くための前史であり前置きであると、著者は言う。
何故そんなに長い前置きが必要かといえば、ひとつには薩摩藩そのものがたどってきたユニークな歴史にあるし、もうひとつは、現代人には分かりにくい朱子学の毒を、丁寧に説明しなければならないからだ。
というわけで、幕末へ繋がる物語として、古代から江戸末期までの薩摩の歴史が紡がれてゆくわけだが、これが本題でないにも関わらずとても面白い。
薩摩というと、日本史においてはあまり重要な役割を演じない周辺地帯という印象で、幕末における活躍以外で薩摩という土地が話題になったことはないのではないだろうか。
日本史全体からはマイナーといってもいい薩摩史は、初めて知ることも多く新鮮な印象をもたらす、特に、家康はなぜ島津に琉球征服を命令したのか?、という謎に対する井沢元彦の推理が非常に冴えていて、面白かった。

後半あたりからは一転して朱子学の説明に入る、いや正確に言えば、日本史に及ぼした朱子学の毒編とでもいうべきか。
この、朱子学に関する説明は、今までの井沢元彦の著作で散々説明されてきた事なので、特に目新しさはなく、まるで復習のような気分で読み進めた。
もちろん、この朱子学の説明も長い前置きの一部であり、これは西郷の征韓論にも繋がってゆく話なのだが、あまり詳しく書くと購入意欲をそぐかもしれないので、詳しく知りたい人は自分で読んでみてください。

とにかくこの本は、幕末における薩摩藩と西郷にだけ焦点を絞った良書だと思う。
こういった、ある特定の地域にだけ絞った歴史の本というのはあまり見ないので、そういった意味でも新鮮だった。
もちろん、来年から始まる大河ドラマを見据えての出版だろうけど、島津・薩摩・西郷、このうちどれかひとつにでも興味があるならば、読んで損はないと思ったね。

あと最後に、『中韓を滅ぼす儒教の呪縛』でも似たようなこと言ってたけど、
「しかし、ここで私、井沢元彦は断言しておこう。これこそ中国を大きく変えた中国史上最大の事件であると。儒教が新儒教(朱子学)に変わったのも、靖康の変以前と以後で中国人、特に漢民族の考え方が徹底的に変わったからである。若い読者は覚えておいてほしい。五年後になるか一〇年後になるか半世紀後になるかわからないが、この靖康の変が中国を変えた最大の事件であるという意見は今でこそ私の個人的主張に過ぎないが、いずれは学会の定説になるはずである。」(P137)
と書いてあったので一応引用しておきます。(笑)


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