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カテゴリ:宗教 > キリスト教



吉川弘文館の人物叢書は、そんなに高い値段ではないものの、なんだか雰囲気が専門書っぽいなと敬遠していたが、薄い本なら通読できそうと思いこの本を手に取った。
ページ数はほんの150ページほどで、付録を抜かすと本編は約120ページ、だからというわけでもないが普通に読み通すことができた。
もちろん、これは短いから読みやすいというわけではなくて、本の内容そのものが平明で分かりやすく、ザビエルの人物像が伝わってくるような魅力的な伝記であったことが主たる原因だ。

若干文章が古臭いと感じることがあるものの、読みやすさを阻害することはなく、むしろ文体にたいするよいスパイスになっていると思う。中身についてみても、きちんと物語になっており、枝葉末節を延々と論じるということもなく、普通に読みやすい。
この読みやすさはもしかしたら、本の短さが要請したものかも知れないが、ザビエルの生涯をコンパクトに無駄なくまとめ、しかも読み物として普通に面白いという、コストパフォーマンスならぬページパフォーマンスにすぐれた一冊だと思う。
伝記を読んだ事はほとんどないから比較できないけれど、すぐれた本ではないだろうか。

内容はと言うと、基本的にザビエルの行動を記述しその死まで描くという感じで、彼の神学や思想についてはほぼスルーしてある。どういった信仰を持ちどのような思想を抱いていたか。日本で布教したことによって、その思想に変化があらわれたのか、それとも日本からの思想的影響はほとんどなかったのか、こういったことに関してはほとんど記述がなく、読み終えて不満を感じる人もいるだろう。
分量を考えれば、こういった思い切った選択は止む得ないとは思うが、出来れば、もう少し分厚くなっても良いので、彼の信仰と思想について記述して欲しかったと思う。

とはいえ、著者の文章と描写はなかなかに魅力的で、ザビエルに対する愛着を感じるし、先述したこの本の欠点も見ようによっては余計な事を省いてわかりやすくしてあると捉える事もできるので、あながち欠点ではないのかもしれない。
とにかく、伝奇である歴史書であるという前に、魅力的な読み物であったというのが自分の感想で、ザビエルについて知ることができてよかったというよりも、よい本に出会ったという感じが強い。

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236ページと、新書としては普通よりちょっとだけ多いというページ数ながらも、キリスト教入門というタイトルに恥じず、何から何まで取り揃え、しかもわかりやすいという、贅沢な一冊。
ジュニア新書だからと高をくくって読み始めると、その内容と密度に驚かされる。
いわゆる、若者向けの入門書にありがちな、猫なで声のキモ文体は欠片もなく、ごくまっとうに真面目に書かれた文章で、奇を衒ったところはひとつもなく、ジュニア向けだからといって媚びない姿勢は読んでいて心地よい。
著者はキリスト教と宗教の学者であり、あくまで学問的な立場からこの本を書いており、信者が書くような護教的なタイプの本ではない、そこも安心して読むことのできるポイントだ。

 ⅳページより引用
 「本書は、キリスト教の布教伝道のためのものでも、キリスト教の信仰を深めるためのものでもなく、むしろノン・クリスチャン(非キリスト教徒)を読者に想定し、(中略)キリスト教という宗教について、正しく適切な知識と理解を養っていただくために書かれたものです。」

護教的な書物ではないが故に押し付けがましさがなく、冷静で中立的な記述には透明感がある。
歴史と教義だけではなく、三大派閥の違いもきっちり抑えてあるところもすばらしい。
それだけでなく、救世軍だのモルモン教だのといったどうでもいい有象無象まで解説しているあたり、読み物としてだけではなく、事典としても価値があるのではないか、と思わせる。 
事典代わりに一冊買っておいて、気が向いたときや知りたいことがあったときに、パラパラめくるという読み方もありだろう。

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日本におけるキリスト教あるいは、キリスト教の日本に対する影響と交流というテーマなら本を探すのに苦労することはないだろう。しかし、日本ではなく、中国やインドのとなると、これはなかなか苦労するのではないだろうか。
本書はタイトルどおりに、中国とキリスト教の交流を描いた、珍しい本である。
といっても、リブレットの一冊なので、その「範囲」は限られている。

具体的に言うと、16世紀以降の話に限られる。ネストリウス派の話などは、ほんの一行か二行くらいしか出てこない。そして、中国思想に対するキリスト教の影響というものもほとんど描かれていない。あくまで「交流史」に限定されているという感じで、中国がキリスト教に対しどんな態度を取ったのかということを、年代順に丁寧に語っているという感じだ。
人名にしろ事件名にしろ、初めて聞くものばかりで非常に興味深い内容だ。
特に海禁政策をとり、キリスト教に対して厳しい姿勢をとった日本とは違い、中国のキリスト教に対する態度は開かれており、西洋人であるにもかかわらず役人になった人間もいると聞いてはただ驚くばかりだ。
もちろん、その一方で弾圧されるときはやっぱり弾圧されて、獄に繋がれてしまったりするわけだが、その一方で後世になったら名誉回復されたりするあたり、やはり日本とは違う。

ただ、こういった記述を読んでいて思うのは、なぜ清は近代化に失敗して滅び、近代日本は成功したのか、ということだ。
結末を知らずに、18世紀までの日本と中国の西洋及びキリスト教に対する反応を比べれば、おそらく大抵の人間は、近代化に成功するのは中国(清)であり日本ではないと判断するのではないだろうか。
しかし、結果は逆になった。これはよくよく考えると不思議なことではないだろうか?
この本では、そういったテーマには触れるどころか示唆されることさえない、しかし、この本を読んで改めて考えてみるとそういった疑問が湧いたりするのだ。

最後の章においては、西洋に対する中国文化の影響が語られる。
日本の西洋に対する影響というと、文化的・芸術的なものに限られるのだろうが、中国の場合はそれにとどまらず、広い影響を与えたらしい事がわかる。
中国という巨大な文明そのものに対する憧れみたいなものがあったらしく、ヨーロッパ人が中国人を演じたり、中国人が主人公の演劇もあったらしいとは驚きだ。
そして、かつては中国に対して憧れを抱いたヨーロッパ人が、しだいに中国侮蔑へと転じアヘン戦争が勃発する事によって中国にとっての近代が始まる。



タイトルどおりの内容だったので、初めて知ることばかりで面白かった。
通常、キリスト教というと西洋におけるキリスト教か日本におけるキリスト教というテーマになりがちで、日本以外の非キリスト教圏の文明とキリスト教との交流というテーマは、あまり見かけない。
それだけに新鮮な気持ちで読むことが出来たし、もっと他にこういったテーマの本が出ればよいなぁと思った。
「インドとキリスト教」とか、「イスラム圏にとってのキリスト教」とかね、そういうテーマの本をリブレットで出して欲しい。


参考になる
イエズス会と中国知識人/ザビエルの音景


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