魔理沙の唐突な死から始まるやや重めのシリアス作品。
作品全体にただよう独特の空虚感が印象的な作品で、人を失う事の哀しみを非常に丁寧に描いている。
丁寧にといっても、感動の押し売りのような押し付けがましさは皆無で、人が死ぬ事のあっけなさと、残されたものたちの哀しみや驚きというものが、淡々と静かに描かれている。
自分としてはこういった、抑制された筆致と淡々とした静けさが非常に好ましかった。まあ、ただたんに自分の好みにあっていただけ、といわれればそうなのだが。

あまり目立つわけではないが、細部の描写もたいへん良かった。
例えば終盤に、アリスが霊夢の二の腕に触れるという描写があるんだけど、これはとても良いと思う。
このシーンがあるかないかでは、かなり違ってくると思う。
作者がどんな考えでこのシーンを描いたかは知らないが、非常にうまいというか、決して目立つシーンではないけれども、良い描写だと思う。
アリスの関心がほんのわずか霊夢に対して向きつつあるという事を、言葉や台詞などではなく、さりげない描写でそれとなく読者に伝えると同時に、肉体そのものに触れるという行為は、アリスが死から生へと向き合うことに決めたという事実を示しているように思える。
ほんの些細なさりげない描写ではあるけれど、作者のマンガ家としての上手さを感じさせるシーンである。

また、アリスの持つ存在感というか、独特の空虚感がたいへん素晴らしく、この作家さんは、アリスを描く事に向いている人だなと感じた。
これは絵柄とアリスがマッチしているというだけではなく、アリスというキャラクターのもつ繊細さや空虚さというものを非常によく表現している。
特に印象に残ったのは、P41の半レイプの目のアリスがね、すごくいい。
そして!、その次のページのアリスの笑顔、これがいい。透明感と儚さにあふれた表情をしており、作品全体で見たときに一番のクライマックスだと思う。
ここまで綺麗な笑顔をしてしまえるんだってのがね、もう…。
言葉で説明するよりも圧倒的な説得力を持ってしまっており、マンガというジャンルの持つ強みと良さをあじあわせてくれる。


そういうわけで、この作家の本は初めてなんだけど、いい買い物だった…。
全体的にやわらかな絵柄なんだけど、やわらかすぎないところが良いと思う。
あと、作品全体に独特の空虚感があって、それがよかった。
やっぱ空虚感のある作品ってのはいいもんだね。







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