まあとりあえず面白かったと思います。
あまり深さや重さを感じさせる作品ではなくて、いい意味で軽い作風なので、あんま考えずに寝そべってみたりするのがよいかも。

ストーリーはわかりやすく、キャラクターも判別しやすく、短い時間にストレートなシナリオをぎゅっとつめたって感じだが、この作品はシナリオやキャラを楽しむというよりも、監督の美意識を楽しむ作品なので、小難しいことはたぶんどうでもいいのだ。


まず、誰が見ても目に付くのがその色彩センス。
原色をドカッと豪勢に使い、まるで画面がキャンバスであるかのように色を塗りたくっている。
しかし、原色だからといって、あくが強かったり見ててつらいという事は全然なくて、普通に見やすく、わかりやすくて面白い。
この見やすさ・わかりやすさはストーリーを追う上で云わば追い風のような役割を果たしているのかも知れない、無駄なものをばっさり切り落としたその画面構成は、監督の美意識に酔わせてくれる一方、シナリオ進行の上で最低限のものが配置されているだけなので、あまり頭を使わなくてすむ。
そして、色使いだけでなくセットも特徴的で、抽象の二歩手前位で留まった簡素なセットは、無駄なものがないぶん分かりやすい上に、独特の美しさを持っている。

音楽や歌の使い方もなかなか上手い、真下信者ならばきっと好きになるだろうタイプの使い方だ。
そして、歌の流し方と映像とのハモリ具合がいいというだけでなく、「歌」というものを登場人物の感情表現の一つしてもちいていて、そこが印象に残った。
オペラみたいというわけではないけれど、要所要所において、歌が、登場人物の感情を自然に且つ無理ない形で表現しており、またその使い方・流し方が実に自然で、ミュージカルやオペラのような不自然さは欠片もないところが素晴らしい。

アクションシーンも独特の癖がありなかなか面白かった。
ヤンマーニ風のアクションシーンで、仮に『MADLAX』のヤンマーニ降水確率を100%とすると、この作品は大体20%から30%くらい。
ヤンマーニを気にするほどでもないけれど、時によってヤンマーニするので注意は必要という、それくらいのヤンマーニなんだけど、アクションシーンの合間合間に見かけるヤンマーニが、良いアクセントになっている。


鈴木清順については、その昔、真下に関する文章を読んでいて初めて知り、興味を持って『ピストルオペラ』を見てみたら、ただのオナニー映画で激烈につまらない作品だったので、その後興味を失ってしまった、という経緯がある。
今回、なんとなく鈴木清順のことが気になってこの作品を見てみたんだけど、普通に楽しめる作品でよかった。
『ピストルオペラ』はじじいの時に作った映画なので、たぶん代表作じゃないんだろう、あれを最初に見たのが悪かった。
その点この作品は、現役時代に撮った映画なので、内容はすごくまとも。
難解さは欠片もなく、ごくまっとうなエンタメ映画であり、安心して視聴することが出来た。
すごく面白かったというわけではないけれど、監督独自の美意識が非常に面白く、画面をうっとりしながら眺めたり、歌の使い方の見事さに感嘆しながら聞きほれたり出来たので、そこそこ満足。



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