戦後間もない頃に作られた、貧しい恋人たちの「一日」を描いた作品。
登場人物は少なく、起こる事件も小さい、全体的に小さくまとまっている感じだが、それは悪い意味ではなくよい意味で、良質な小品とでもいうべき、あまり目だたないけれどきらりと光る魅力を持った作品、という感じだ。
黒澤映画というと、時代劇やシリアス現代劇の印象が強いが、こんな感じのなんてことない日常を描いた作品もある、というのが意外だ。

なんてことない、と書いたが、この作品は、なんてことのない日常の風景を劇的に描いており、そこはやはり黒澤映画なのかなあ、と思う。
特に後半においてはそれが顕著で、ロケではなくセットでの撮影であることもあいまって、非常に劇的な、良い意味で作り物らしい感じの画面に仕上がっている。
本来ならばロケで撮りたかったらしいが、色々と都合があってセットになってしまったらしいということ、けれど、セットでなければ、あの作り物めいた美しさは描けなかっただろう。
そういった意味では怪我の功名とでもいうべきシーンで、これに関してはロケでなくセットでよかったと、思っている。


恋人たちの一日を描いた作品という事で、なにやら甘酸っぱい、ロマンチックなシーンばかり続くと思う人もいるだろう、しかし、この作品は戦後の現実を容赦なく描いた作品でもあり、恋人たちの一日の合間合間に、そういったみもふたもない「現実」が差し挟まれる。
小汚い格好をした浮浪児、いかにも悪いことしてお金儲けましたって感じの成金、たかりのプロ、そして焼け野原のあとに立つまばらな建物。
そういった、あまり綺麗とはいえない、現実そのものとしか言いようのないものを描きつつも、決して汚い画面になっていないというのが驚かされる。
そもそもにおいて、主役の二人からして貧乏で、数少ないお金をちまちま使いながらデートをしているのであり、お金に縛られた貧乏臭い一日といえば言える。
そうであるにもかかわらず、二人の一日には独特の美しさがある、現実を容赦なく描きつつも、貧しい恋人たちの美しい一日を描ききった、というところがこの作品の良さだろう。


DVD   amazon e-hon
Blu-ray  amazon e-hon
Amazonビデオ