85点
人を選ぶゲーム…、といえばこれほど人を選ぶ作品もないだろう。
単純に難易度が高いからというだけではなく、また、扱っている題材がややマニアックだからというだけでもない。
ビジュアル面がしょぼく、人を選ぶというのももちろんあるが、しかし、そんなことはどうでもよいことだ、このゲームのもつ最大の…、そして最も人を遠ざけまたハードルが高いといわざるを得ない特徴に比べれば些細なことだ。
メモが必須のゲーム、この言葉だけでどれだけ多くの人をたじろがせてしまうのだろう?
それも、「メモが必須」という言葉から多くの人が想起するような、走り書き程度のものではなく、ちゃんとした「計画書」「予定表」をきちんと書いてそれとにらめっこしながら進めなければいけないゲームだ。
というか、メモはひとつだけでは足りない、細々としたことを書き付けておく普段使いのメモばかりではなく、兵器開発の順番と予定を書いた「開発計画」、艦戦建造の予定と目標を記した「建造計画」、大雑把な予定と侵攻作戦の概要を記した「作戦計画」、等々。きちんと戦争を遂行するためには、事前に計画を立て準備し、かなりガチめの本気メモを書かなければならない。
もうこの時点で、多くの人間が篩い落とされてしまうであろう。けれど、それでよいと思う。このゲームは、多くの人間に訴えかけるような作品ではなくて、SLG好きで兵站好きで内政好きでメモをとることを厭わないような、ごく一部の人間に向けられて作られたゲームなのだから。
従って、ちょっと興味があるとか、少しのぞいてみたいとか、なんか兵站ゲーをやってみたいとか、そういった軽い興味で購入すると、結構本気で後悔してしまうかもしれない。
なので、個人的にはこのゲーム好きだけど、あんま気軽に薦められないよなぁ…的ジレンマに陥らざるを得ない。
・どんな人に「むかない」のか?
まあ、とりあえず、このゲームにむかない人はどんな人なのかを以下に列挙してゆきたい。
・マニュアルを通読する気力がない人。
(マニュアルにはほぼ全てが書いてある。戦闘の計算式まできちんと書いてある。なのでこれを読まずにこのゲームに挑むのは蛮勇以外の何者でもない。自分は二回通読しました。)
・とにかくたくさん戦いたいって思っている人。
(ショートシナリオのみ遊ぼうって考えてるなら問題ないかも。)
・SLGの内政が苦手だったり嫌いだったりする人。
(華やかな戦いよりも、戦いの準備が九割を占めるという兵站ゲーなので。)
・チマチマしたことが苦手な人
(輸送船団の編成や航空機の移動に物資の輸送など、チマチマした作業ばかり。それを楽しめるかどうか。)
・航空機を飛ばすのにわざわざ軽油が必要と聞いてイラっとした人。
(前作太平洋戦記2は、船も航空機も同じ資源で動かすことができたが、今作は船用の重油と航空機用の軽油に分かれているというマニアックさ。)
大体こんな感じだろうか。
上に列挙したものにひとつでも当てはまった場合、このゲームを購入して後悔する可能性が高い…と思う。
そういうわけで、もし購入を考えている人がいるとしたらなるたけ慎重に考えたほうがいい。このゲームを楽しむためには多くのハードルを越えねばならず、その人間の適正が試されるからだ。
・究極かもしれない兵站ゲー
兵站を扱った有名ゲームと聞かれ、たいていの人の頭に思い浮かぶのは艦これだろうか。
艦これはちょっと触れたことがあるんだけど、ほとんど運ゲーなのですぐ飽きてしまったので、あまり詳しくはない。キャラは好きだけど。
まあそういうわけであんまり艦これのシステムに詳しくないんだけど、確かにそこそこ兵站ゲーだったなあ、という印象はある。
うろ覚えだけど、4種類の資源があり、建造・修理・出撃といった行動をする際、それぞれの資源を一定数消費する、みたいなシステムで、空母や戦艦は出撃するだけでも結構な資源を消費する…、とかそんな感じだったと思う。
この資源は、なにもしなくてもリアル時間が経過すれば少しずつ回復するが、回復手段はそれだけでなく、船を遠征に派遣することによって回復することも可能…だったはず。
兵站ゲーと言われているけれど、そこまでややこしい作品ではないし、かなり気軽な気持ちでサクッとプレイすることができるし、当然のことながらメモをとったり電卓を叩いたりする必要もない。なので、そこまで兵站ゲーって言うほどか?、とやや疑問を感じることもないが、まあ、お手軽兵站入門ゲーとして考えれば、これはこれでアリかもしれないとは思う。
太平洋戦記3の場合、資源・物資の種類が全部で9種類と多い…だけではない。資源の中にはきちんと加工しなければ何の役にも立たないものもあるのだ。
たとえば鉄は鉄鉱石を加工することで作る、アルミはボーキサイトを、軽油と重油は原油を、と言う風に基本的には、なにかを工場で加工しないと資源を得ることはできない。
鉄鉱石→鉄→弾薬・船の建造・航空機の生産・工場増築・等々
ボーキサイト→アルミ→航空機の生産
原油→軽油→航空機の運用に必要
→重油→艦船の運用に必要
セメント→工場や資源の増築・陣地増築と飛行場の拡張
と、こういった次第で結構めんどくさい。
そして資源・物資の種類が多くめんどくさいというだけではない、基本的にゲームのパラメーターが史実よりなので、資源の産出量がめっちゃシビア、というところも、このゲームが兵站ゲーである理由のひとつだ。
このゲーム、出てくる艦船の一つ一つに燃費というパラメーターが設定されており、文字通りその船がどれくらい重油を食うかを示している。
参考に日本軍の艦艇の燃費データをあげてみる。以下の数字は、多ければ多いほど燃費が悪いと言うことを示す。
大和 189
赤城 158
翔鶴 111
妙高 77
天龍 40
吹雪 27
松 23
丙型海防艦 4
丙型潜 12
高速タンカー50
低速タンカー14
とこんな感じになっている。当たり前だけど主力艦であればあるほど燃費が悪く、重油をガンガン消費することになる。
では、この燃費というデータがあり、そして、このデータの格差が激しいということは、ゲーム内においてどんな結果をもたらすかと言うと、戦艦・空母を用いた艦隊運用は、ここぞというときしかできないと言うことだ。
重巡以下の艦艇はともかく、戦艦・空母は少し活動させるだけで重油が目に見えて減るため、普段は母港で何もせず待機ということがほとんど。
敵艦隊と決戦するとか、敵基地を攻略するとか、そういう時以外は母港でおとなしくしていてくれないと重油が減って困るわけで、ゲーム中においては、クリアまでの総ターン数の七割から八割くらいは何の活動もしない、ということになる。
しかしこのことは逆に、他のゲームだと能力がいまいちで使えない艦でも、燃費さえ優秀なら、このゲームだと活躍できるということになる。
代表的なのは海防艦だ。
海防艦を登場させたゲームというと、あまり見たことがないし思いつかない。しかし、それも無理はない。速度は遅いし武装は貧弱、取り柄といえるのは対潜能力とコストが安いところだけ、という感じで、ゲームに出してもかなり微妙なユニットになってしまうことは明らかだからだ。
しかし、太平洋戦記3においては燃費がデータ化されている。
この「燃費」という面から見ると海防艦は超優秀な艦種であり、誇張なしに本作品の主役は海防艦である、と断言してもよい。
というか海防艦なしではクリアはおぼつかないし、最低でも100隻以上は生産することになるし、輸送船団の護衛で年柄年中活躍するわけで、どこからどうみても主役だし、海防艦なしでクリアするのは…かなり難しいと思う。
・覚悟してから買え
まあそういうわけでとにかくハードルの高いゲームだし、いい意味で地味なゲームなので、向き不向きがズバッとわかれる…、いやそもそも向く人はかなりの少数派になるだろうと思われる。
というか、この列島で太平洋戦記3を楽しんでる人って4桁いるんだろうか?下手したら3桁しかいないんじゃなかろうか…、と。わりと本気でそんなことを思ってしまう。
とまあそんな感じの超マニアックなゲームなので、少し興味がわきましたみたいな感じの軽い理由なら、購入することはおすすめできない。高い買い物だし、買った後で放り投げた人も結構いると思うので、なるたけ慎重になったほうがいい。
このゲームに自分が向くか向かないかを判定するためには、前作の太平洋戦記2を買ってプレイしてみてそれで判断するという方法もある。